【報告1】
「『細雪』と写真」
安田孝
(神戸女子大学)
関西移住後の谷崎については「古典回帰」と評され、『細雪』はその代表作とみなされてきた。ことに上巻の平安神宮の花見の場面は日本人の感性のありようを説いたものとして名高い。しかし、花見の際、貞之助は当時最新鋭のカメラであったライカを用いて、幸子、雪子、妙子、悦子の写真を撮る。同時代の写真をめぐる状況、例えば「ライカの名手」と評された木村伊兵衛などを参照し、『細雪』における写真の位相を解明する。
【報告2】
「グラフモンタージュ 都市の視線、機械の眼差し」
馬場伸彦
(甲南女子大学)
『犯罪科学』『犯罪公論』における「グラフモンタージュ」は映画用語が使われていたために、また、実践者であり理論家であった堀野正雄や板垣鷹穂らの証言から、西欧の新興芸術の流れに位置づけられている。しかし、「グラフモンタージュ」と命名された一連の作品群を概観してみると、そこには彼らの意図とは異なる方向へと受容の地平が開かれている。それは社会の裏面をメディアを通じて安全に覗き見たいという大衆社会の欲望に応え、独自のリアリティを獲得していたのではないだろうか。
〔ゲストコメンテーター〕
日高佳紀
(奈良教育大学)
専攻は日本近代文学。谷崎潤一郎の作品分析を切り口に、文学とメディア、社会制度、読者の問題についての研究を展開する。論文に、「谷崎潤一郎『武州公秘話』と読者─メディア戦略とその不可能性」(「日本近代文学」第66集)、「有閑マダムの戦中と戦後─谷崎潤一郎『細雪』」(「國文學」臨時増刊号『発禁・近代文学誌』)などがある。
小林美香
(大阪芸術大学・大阪成蹊大学・
京都造形芸術大学非常勤講師)
専攻は写真論・写真史。関西を中心に写真に関するレクチャーやワークショップ、シンポジウムの企画・開催に携わる。著書に『写真を〈読む〉視点』(青弓社)、共監訳書にジル・モラ『写真のキーワード―技術・表現・歴史』(昭和堂)、論文に「インスタレーション・アートにおける写真―フレッド・ウィルソンの作品を一例に」(「デザイン理論」第42号)、「展示の力―「勝利への道」展とヘルベルト・バイヤーの展示デザイン」(「美学」2003年春号)などがある。
司会進行 : 吉田司雄(工学院大学)
本公開研究会は、2005年度神戸女子大学研究助成費、2006年度科学研究費補助金による研究活動の一環です。