
とりあえず、サルである。猿の話から始めることにしよう。イギリス史を専門とする五人の研究者の手になる『世紀転換期イギリスの人びと』と、十二人の日本近代文学の読み手の共同作業である『ディスクールの帝国 明治三○年代の文化研究』をつなぐのは、そこに含まれる論文がほぼ同じ時期の日英の文化のありようをともに対象にしているということではない。日本とイギリスの架け橋は猿である。
吉田司雄によれば、「明治二九(一八九六)年、少年雑誌の世界でにわかに『猿』ブームが巻き起こる」。なぜであるか。「最大の理由はと言えば、実はこの年が申年であったからに他ならない」。しかし、ここですぐに、なんだつまらないと言ってしまったのでは文化研究というのは成立しないのであって、吉田はこの年の各種の少年雑誌にのった猿関係の文章をしらみつぶしに調べ始める。
富山太佳夫氏(毎日新聞2000年5月7日付・抜粋)