吉田司雄2004


11月15日(月)

 宣伝を二つ。まず勤務先の大学祭で、顧問をしているSF研究会の部屋に乱入(笑)し、プライベートなビデオ上映会を行なう。会津さんからお借りした、とっておきの珍品ビデオ。残念ながら日本文学協会の大会当日なので、午前中にしか上映できない。もしかして観客ゼロ、なんてとんでもないことにならなければいいのだけれど…。

 もう一つは、日本児童文学学会での発表。今年の7月、京都の仏教大学での日本文学協会夏期研究集会(国語教育部門)で「「かわいそうなぞう」の神話」という題で発表したのを、会場で聴いて下さった児童文学研究者の宮川健郎さんが、東京でもやらないかと声を掛けて下さったもの。もちろんそっくりそのままとはいかないから、骨子は変えないものの全面的なリアレンジをする訳だが、はたしてどうなることか…。

 それより当日のメインは、新札登場で話題の「野口英世」の伝記についての発表だろう。野口英世の偉人伝的な語られ方にはジェンダー論的にみても問題があって、『ビデオで女性学』(有斐閣ブックス)を参考に映画『遠き落日』(神山征二郎監督、1992)を使って、授業で取り上げたこともあるのだが、子供向け伝記読み物の中で、その生涯はどんな風に神話化されてきたのだろう。今からワクワクしてしまう。

工学院大学・新宿祭「SF研究会」特別企画

エジソン社製作
幻のフランケンシュタイン映画上映!!


 11月21日(日) 午前10時30分〜
 工学院大学新宿校舎7階 0762教室  入場無料

http://www.kogakuin.ac.jp/map/shinjuku/index.html

 [特別上映プログラム]
 エジソン社製作
  世界最初の『フランケンシュタイン』(1910) 14分
 会津信吾氏(古典SF研究家)秘蔵
  珍品モンスター映画名(迷)場面選 約40分(予定)




 エジソン社製作の『フランケンシュタイン』は、もう現存していないと長く思われていた幻の短編映画です。チャールズ・オーグルが映画史上初めて演じたモンスターは、有名な1931年公開のユニバーサル映画の『フランケンシュタイン』、あのボリス・カーロフの印象深いメーキャップのモンスターとは全く異なっています。また、メアリー・シェリーの原作小説でも1931年版の映画でも、若き科学者のフランケンシュタインは墓場から持ってきた死体を縫い合わせてモンスターの身体を作りますが、このエジソン社版では大きな鍋に化学薬品を次々と放り込むとクローゼットのような箱の中でモンスターがむくむく立ち現れるという、錬金術風の演出が施されています。無気味なモンスターの姿は当時あまりに怖すぎると、上映禁止にした州までありました。

 併せて、古典SF研究家として有名な會津信吾さんから特別にお借りしてきた珍品モンスター映画ビデオをダイジェスト上映します。普通の映画館ではまず上映されず、ちょいとそこいらのデオレンタル店も絶対に置いてない。この機会を見逃したらおそらく一生お目にかかれない映像ばかり。心ある方はぜひ御来場を。


日本児童文学学会 12月例会

 12月11日(土) 午後2時〜4時
 日本フラワーデザイン専門学院(高田馬場駅下車徒歩3分)

http://www.mediabox-net.com/flower2/map.html

 研究発表
  奥山 恵「野口英世の伝記をめぐって-「人間」を描くということ」
  吉田司雄「土家由岐雄を読む−「かわいそうなぞう」「人形天使」の原点」

  司会 宮川健郎

10月31日(日)

  立教大学に江戸川乱歩研究国際シンポジウム「江戸川乱歩−1920年代大衆文化 社会の光と影」を聴きに行く。パネラーは王成さん(中国 首都師範大学外国語学院) 、関根英二さん(アメリカ パデュー大学)、坂井セシルさん(フランス パリ第7 大学)、浜田雄介さん(成蹊大学)。坂井さんから『La modernite a l'horizon』と いうフランス語の論集をいただく。三年前のパリ滞在中に聴いた、これも1920年 代日本の大衆文化に関する国際シンポジウムをまとめたもの。なんだか懐かしい。

10月28日(木)

  一柳廣孝さんと某出版社の編集の方お二人とで飲む。用向きは秘密。一柳さんは先 日、「幽」編集長の東雅夫さんのインタビューを受けたそうな。何を隠そう、東雅夫 さんは大学の同じ専攻の同期生(卒論の指導教授も一緒)で、NHKテレビ「生活ほっ とモーニング」の杉浦圭子さんと東さんとが、同期中のニ大有名人(出世頭)なので ある。大学時代、杉浦さんは篠山紀信の撮影で「週刊朝日」の表紙を飾り、東さんは 「幻想文学」の前身であるガリ版刷りの「金羊毛」をスロープ上の出店で販売してい た。あれからもうウン年…。

  一柳さんへのインタビューは「幽」次号に掲載されるそうだが、東さんのHPでも 「アヤしい研究室訪問」としてちらっと紹介されている。一柳さんご自慢の「髪の伸びる人形」が写真公開されているので、ぜひこちらを。
http://blog.bk1.jp/genyo/archives/2004/10/index.html

10月18日(月)

  一昨日、昨日と日本近代文学会の秋季大会が奈良大学であった。運営委員でもあり、 いろいろ気をつかうことも多く、へとへと。もっとも二日とも、奈良教育大の日高佳 紀さんに誘われるままに夜中の3時過ぎまで呑んでいたのだから、自業自得ではある のだが。特に二日目、三次会のカウンター・バーに行き着いた頃には人数もどんどん と減り、最後は大会特集に学会外からお招きした苅部直さんとこちらと、大会を手伝っ てくれた奈良教育大の学生たちだけに。苅部さんは1965年生まれの東京大学大学 院法学政治学研究科助教授で、著書に『光の領国 和辻哲郎』(創文社)をお持ちの日本政治思想史研究者。淡々とアルコールを口にされるのだが、その風貌に似合わず、 いや強いこと強いこと。さすがにへたばり、後を学生たちに頼んでホテルへと戻る。

  大会自体とは関係ないのだが、実は奈良滞在中にショックなことが幾つかあり、そ れがアルコール量と疲労感を増大させていたのかも知れない。帰宅後、ビデオで昨日の秋華賞を見る。休憩時間にこっそり電話投票で購入した、父がサンデー系の馬を除 いた5頭+一番人気ダンスインザムードの三連復ボックス馬券が的中していた(1000円)。ふぅ…。

10月13日(水)

 「日本近代文学」第71集が届く。横井司氏が「展望」欄の「探偵小説と日本近代文学研究」で拙編著『探偵小説と日本近代』に触れてくれている。全面肯定という訳ではないと思うが、やはりありがたい。

 ただ今回の「日本近代文学」で日本国内の研究動向を展望したものは横井氏のものだけで、「研究ノート」欄も併せて海外や隣接領域で日本近代文学と深く関わる様々な研究が精力的に展開されていることは伝わるが、 その一方、日本の研究状況は全体としてはどうも深い停滞期に入ってしまった印象を拭えない。欲目に映ることを承知であえて嘲笑物のことを書くと、「硬直化」し「時として閉塞感を覚えさせる」ような昨今の研究状況において、 「今年に入って、近代文学研究の分野からの探偵小説に対するアプローチが目立っている」というのがほとんど唯一の前向きな流れで、『探偵小説と日本近代』はその代表みたいに見えてしまう。もちろんそんなことはないはずだが、 もしかしたら国内動向の展望が乏しいだけでなく、「新刊ノート」欄が著者自ら執筆する「執筆ノート」欄に代り、今号には書評が一本もないことも、そうした印象と関わっているのかも知れない(自著紹介だけだとどうしても 総花的になりがちな気がするが、どうだろうか? 次号からは「書評論文」も数本載るそうなので、それに期待したいが)。

 そんな中、大杉重男氏が「執筆ノート」欄で、『アンチ漱石』への石原千秋氏の書評への反論に一頁のほとんどを費やしているのが目をひく。「漱石研究者」と「一般読者」とを使い分けた石原氏の文から、大杉氏は「「テクストはまちがわない」 ならぬ「研究者はまちがわない」というイデオロギー的信念の吐露」まで読み取ろうとしている。かくして自分の脳内では、大杉氏の文は「日本近代文学の研究者」という一句に拘わる横井氏の文と接合する。テクスト論から文化研究へといううねりの中で 「日本近代文学」の研究対象も従来考えられなかった広がりを持ち始めた、とはすでに耳にタコができるほど言い尽くされた感がある物言いだが、対象の範囲や在り方が変われば、研究する側の名辞もぐらついて来ざるを得ない。もちろん「研究者」とい う主体のあるべき姿勢については、これまでにも散々議論がなされてきた。しかし、いま問われているのは、「研究者」という表象/表象する「研究者」たちの在り方であろう。少なくとも自分はそう真摯に受け止めたいと考えている。

9月20日(月)

 少しだけ自慢話。中央競馬でも1着から3着までの馬を着順通りに当てる三連単馬券の発売が始まった。従来の馬券以上に難しいが、的中すれば配当もでかい。この夏、8月14日の土曜日まで北海道にいたのも、実はこの日が札幌競馬場での三連単先行発売の初日だったのた。当日発売された2レースと前日発売のクイーンステークスの三連単馬券を購入。結果はすべてペケ。だが、いち早く三連単になれておいて、結果大正解だったと思う。

 9月11日からいよいよ全国発売。普段はPAT(電話投票)で買っているのだが、いまのソフトでは三連単は購入できない。しかし、先週は土日とも場外馬券売場へ出かけられず。18日の土曜日、午前中の非常勤先の授業を終えた後、ようやく忙しさの合間を縫うようにして、後楽園のウィンズに立ち寄る。中央競馬の三連単では、まだ期待ほど大きな配当はでていない。100円が1万倍以上になって戻ってくる百万馬券さえまだだが、そろそろ荒れてもよさそうだ。この日最も混戦ムードなのは中山 の最終12レース。内寄りの先行馬有利とみて2番、5番、6番、7番、8番、9番の馬6頭の三連単マルチボックス120通りを100円ずつ購入。本来ならばここでテレビ観戦するのだが、仕事がたまっているのでそれもままならず研究室へと戻り、ラジオでレース実況を聴く。レースはほぼ予想通りに展開し、人気薄の6番レディアンスシチーが最後突き抜ける。アナウンサーが「大変な結果になりました」と興奮し、「オッズを読み上げるのがこわい」とまで言う。三連単1020920円。中央競馬初の百万円馬券ゲットかと思いきや、確定を待っている間に札幌の最終も三連単が百万円を超えたことを告げられ、それだけが少し悔しい。

  翌19日、日曜だが公務のため出勤。後楽園のウィンズに寄って、的中馬券のコピーをとった後、初めて大口窓口で換金。1万円札を100枚束ねた帯封をJRAの袋入りで受け取る。せっかくだからと数レース三連単だけを購入。そうしたら今度は中山10レースが的中してしまった(120210円×2)。その他あれこれ二日間で140万円近い払い戻し金を受け取ったのだが、もちろんこんなことはめったにあるものではない。当ることは少なく、当らない時はとことん当らないのが競馬なのだ。敬老の日だから何か奢ろうかと母親に言ったら、これでもマイナスなんじゃないのと言い返される。うぅ、鋭い…。という訳で、これを読んでたかろうと思っても駄目です。すべてはいずれ再びハズレ馬券という紙屑の山へと変わってゆくことでしょう。

8月20日(金)

 瞬く間に時が過ぎてしまった。まるっきり日記の体をなしてないけど、久しぶりの近況報告。8月4日から14日まで北海道に行っていた。5日に日本近代文学会北海道・東北地区研究集会の「ミステリ小特集」で「スパイ小説という問題系」という題の発表。翌日、バスによる文学散歩で有島記念館や木田金次郎美術館へ。翌々日、ノーザンファーム早来へ。競馬ファンなら知らない人はいない日本でトップの繁殖育成牧場の一つだが、一般の見学申込みは一切受けつけていない。しかし今回、あるコネクションで特別に見学することができたのだ。今年のセレクトセールで4億9千万の価格レコードを記録したダンスインザダーク×エアグルーヴの牡馬を始め、社台グループの誇る種牡馬や繁殖牝馬、さらに夏の休養で戻ってきていた今年のダービー馬キングカメカメハや現役ダート最強馬と目されるアドマイヤドンなどがいたと言えば、思わず垂涎の出る人もいるはずだが、あんまり詳しくはここには書きにくい。その後も札幌の円山動物園、そして7月には上野動物園の入場者数を超えたと今話題の旭川の旭山動物園などをまわってきた。

 で、実は久しぶりに北海道旅日記をネットに載せようと思っていたのだが、持参したノートパソコンが、なんと旅行二日目の朝に故障してまるっきり使えなくなってしまったのだ。それゆえ現在も自宅ではメール送受信ができず、データーも死に体状態で原稿書きにも支障が出始めている。しばらくはメールをいただいてもすぐには返信できないなど、様々な迷惑をおかけすることになるが、この場でお詫びしておきたい。このあと今度は9月5日から12日まで熊本に行く予定。次こそ旅日記をアップできるといいのだが。

 旅行から帰って間もなく、一柳廣孝編『心霊写真は語る』(青弓社)が刊行された。「回帰する恐怖−『リング』あるいは心霊映像の増殖」というエッセイを寄せている。一柳さんには同じく青弓社から3月に出した『探偵小説と日本近代』に書いてもらったので、言わばバーター取り引きで書かせていただいたた文章である。そう言えば、自分にとっての最初の単編著の宣伝もしていなかったので、ここで併せて出版社のサイトにリンクを貼って内容を紹介しておきたい。未見の方はぜひ書店で手に取ってみてほしい。

『探偵小説と日本近代』

『心霊写真は語る』

1月8日(木)

 學燈社の「國文學」2月臨時増刊号「日本の童謡」が届いた。「催馬楽・梁塵秘抄からとなりのトトロ・だんご3兄弟まで」というキャプションが表紙についているが、この本の一番最後の方に歌詞が収められた「ひょっこりひょうたん島」「黒ネコのタンゴ」「だんご3兄弟」の短い解説を書いている。

 「國文學」誌は以前「音楽と文学」という特集号で村上龍について書かせてもらったせいか、その後もなぜか音楽と関連する原稿の依頼を時々いただく。正直言って普段まるっきり音楽を聴かない人間なので、そのつど大あわてでCDや本を買い漁っては、にわか勉強に励むはめに陥る。少しずつ得たいの知れない(苦笑)CDと音楽本とが増えてゆく。やはり臨時増刊号「村上龍特集」の時にもキューバ音楽のCDやビデオや本が溜まった。研究室に埋もれたそれらを発見した学生から「こんなの、聴くんですか?」とマジに聞かれて困った。そして今回はついにタンゴ。形だけ(!)どんどんラテンアメリカ音楽通になってゆく。

 とはいえ、最も入れ込んでしまったのは、何と言っても「ひょっこりひょうたん島」だ。「ひょうたん島」は近年リバイバルブームの勢いが出てきて、関連資料も増えているが、その奥の深いこと深いこと。2000年9月の第31回遅筆堂文庫・生活者大学校での原作者の一人・井上ひさしの「爆弾発言」は、どれくらい知られているのだろうか。そう遠くない時期に、「ひょっこりひょうたん島」を中心に据えた戦後文学史論を書いてみたいと思っている。

1月1日(木)

 謹賀新年。昨年の元旦は在外研究先のパリで迎えた。異国にいたのが遠い昔の出来事のように思える。気のせいか、日本の年末は無闇に慌ただしく感じられた。

 昨年の12月27日は勤務先の忘年会。正確には「むつみ会」という教職員任意参加の団体の一泊旅行で、河口湖畔の「湖畔亭うぶや」に泊まった。なかなか豪華な宴席料理をいただく。翌28日はオプション企画のバス・ツアーに参加。河口湖オルゴールの森と猿まわし劇場とを見学し、富士急ハイランドの敷地内にあるホテルハイランドリゾートの中華料理「上海菜館」で昼食の後、昇仙峡へ。甲府駅へ着いたのは4時前、蕎麦屋で飲んでから帰った。

 29日は在外研究先としてこちらを受け入れて下さったパリ第7大学の坂井セシルさんを囲んでの昼食会。坂井さんは明治学院大学から講演に招かれて来日中。久しぶりに日本で新年を迎えられる。目白の椿山荘のフォーシーズンズホテル内の日本料理「みゆき」で会席料理。集まったのは坂井さんと旧知の人間8人。小さな会だったが、なんだか同窓会みたいで心地よかった。かように年末には結構おいしいものばかり食べていたのだが、その分元旦は質素だ。

 川口湖オルゴールの森の博物館には自動人形(オートマタ)も展示してあった。ロボットづいた一年にふさわしい締め括りだと勝手に思った。そして今年の干支はサル。一足早く周防の流れを組む猿回しも観たことだし、何より「Ape」を冠した名前のコーナーなのだし、今年はこの近況報告とは別に、時々「猿」に関するエッセイ(の出来損ない)をアップできたらと思っている。日記更新もままならなかった昨年を思うと、果たしてうまくいくかどうか。

 最後に宣伝を少し。昨年11月、編集同人の一人として名前を連ねている『文学年報1 文学の闇/近代の「沈黙」』が世織書房から刊行された。パリで書いた小林秀雄『近代絵画』論を載せている。また、クリスマスの日に『岩波講座 文学6 虚構の愉しみ』が出た。こちらには「スパイ小説の政治−『ロシアから愛をこめて』の機略」という文章を載せている。論としての完成度はともかくとして、この二つがこれからの仕事の原点となることは間違いない。その意味で自分にとっては、とても大切な文章である。加えて、他の方々のものは力作揃いなので、ぜひ書店で見かけたら手にとってもらえればと願っている。

『文学年報1 文学の闇/近代の「沈黙」』目次

『岩波講座 文学6 虚構の愉しみ』

『岩波講座 文学』全巻目次

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