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会津信吾
映画化された『われ等若し戦はば』
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続々と小説を発表
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太平洋波高し | 少女倶楽部 | 昭和8年1〜5月号 |
戦へぬ米国海軍の悶え | 日の出 | 昭和8年2月号附録 |
日米は斯く戦ふ | 日の出 | 昭和8年4月号附録 |
東の天紅なり | 講談倶楽部 | 昭和8年7〜10月号 |
鉄血日本軍の強襲(翻訳) | 冨士 | 昭和8年12月号 |
昭和遊撃隊 | 少年倶楽部 | 昭和9年1〜12月号 |
紅の軽騎兵 | 講談倶楽部 | 昭和9年1〜4月号 |
迫れる日露大戦記 | 日の出 | 昭和9年2月号附録 |
黒潮秘密境 | 講談倶楽部 | 昭和9年6〜8月号 |
最後の勝利 (山中峯太郎・福永恭助との合作) |
日の出 | 昭和10年1月号附録 |
怪魔火星戦隊 | 冨士 | 昭和10年4〜10月号 |
南海の軽騎兵 | 新少年 | 昭和10年4〜12月号 |
海底百米 | 小学五年生 | 昭和10年4月〜11年3月号 |
深山の秘密 | 少女倶楽部 | 昭和10年6月号 |
新戦艦高千穂 | 少年倶楽部 | 昭和10年7月〜11年3月号 |
白百合の妻 | 講談倶楽部 | 昭和10年9月号 |
沙漠の騎兵隊 | 日本少年 | 昭和11年1〜4月号 |
こうして見ると、意外なことに発表舞台は必ずしも児童雑誌とは限らず、むしろ作品数は「講談倶楽部」「冨士」「日の出」など大人向きの大衆総合誌の方が多いことに気がつく。ただ、これら大人向きの雑誌に載った作品は、内容的には少年ものの延長といった印象が強く、読者に少年をも含んでいたであろうことは、容易に想像がつく。現代風にいえば、ヤング・アダルトものというジャンルに包括することが出来るだろう。
個々の作品に対する説明は省略するが、若干のコメントを加えておこう。
「鉄血日本軍の強襲」は翻訳もので、原作は米国陸軍予備仕官・軍事評論家のロウエル・M・リンパス「我が咽喉を扼する褐色の魔の手ーーアメリカの歴史にあり得る頁」
Brown Hands at our Throat ! : Potential Pages from American History
なるもの。平田は語学が達者だった(あるいは有能なブレーンを擁していた)らしく、評論の中でさかんに欧文からの引用を行なっている。しかし全文まるごと翻訳というのは、これ一篇しか知らない。
反対に外国語に訳された作品もある。吉林省発行「日本文学」1983年第1期の「五四運動以来日本文学研究与翻訳目録(続)」に、平田晋策『未来的日俄大戦記』(思進訳、北京・民友書局、1934年刊)の記載がある。題名から察すると、これに該当する作品は「迫れる日露大戦記」のようである。
ついでに平田と中国の関わりについて、書いておこう。暁民共産党時代を別にすれば、平田の訪中がはっきり確認できるのは、昭和8年2月の上海・南京視察旅行である。
上海では黄浦江上に浮かぶ軽巡洋艦「寧海(ニンハイ)」を参観し、中国海軍省で海軍次長・李世甲中将と面会し、さらに陸戦隊の酒井参謀少将、日本から平田が引率して来た大学の国防研究会のメンバー(これはいったいどういう組織なのか、実態がわからない。たぶん平田が顧問の学生グループだと思うのだが)とともに郊外の江湾鎮戦跡を尋ねている。南京では八十七師の演習や、揚子江に碇泊する日本の第三艦隊を訪れ、民国軍の幕府山砲臺も望見して、飛行艇「安慶」で上海龍華飛行場へトンボ返りをして帰国した。この旅行記は「私の見て来た支那の陸海軍」として、「少年倶楽部」昭和8年5月号に載っている。
二つの「昭和遊撃隊」「昭和遊撃隊」は平田の処女長編で、しかも「新戦艦高千穂」と並ぶ彼の代表作である。いや、大人向きの子供向きを問わず、日本における未来戦記の最高傑作かもしれない。それほどこの作品はドラマチックで、迫真性があり、感動的である。最終的に、すべてが潜水艦富士の「肝腎のあの点」に絞りこまれていく物語構成や、それが明らかにされて今までの悲壮感がいっきに崩壊するカタルシスは、ストーリー・テラーとしての平田の非凡な才能を証明している。 ![]() アメリカの煽動で、中国空軍が揚子江上の日本の艦隊を無警告爆撃し、その報復に日本が米国艦を撃沈したことから、日米太平洋戦争の火蓋が切って落とされる。
反戦思想ゆえに左傾人物としてマークされていた水野広徳はともかく、「昭和遊撃隊」と同年「少年少女譚海」に連載された長野邦雄の日米未来戦もの「太平洋行進曲」までひっかかっているのだから、楽観はできない。国内だけでなく、対外的に未来戦記が問題をひき起こしたケースもある。昭和8年暮、「日の出」新年号附録の福永恭助『小説 日米戦未来記』が、輸送先のホノルル税関で全冊没収されるという事件がおきた。フィクションの中の仮想敵国が、現実に国家間の緊張を招いたわけである。 |
立候補・そして受難
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